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ベリトゥン島採集記




インドネシアの首都、ジャカルタにて地元のベタクラブ設立10周年記念の国際ベタコンテストが開催された。今年4月にIBC(国際ベタ連盟)の公式審査員になった私は、そのコンテストの審査員として招待されたのだが、これはひどいコンテストであった。多くの出品魚がトリミング(ヒレを切って整形している)されていて、片っ端から失格宣告を出す私にとっては、とても気分が悪いものであった。

そして、そのまま翌日モヤモヤした気持ちを引きずりながら地元の友人とともに、スマトラ方面のローカルエアー、スリウィジャヤ航空に搭乗し、ベリトゥン島へ向かったのだ。最初私にとっては、インドネシア滞在ついでの小島探索にすぎなかった。

ところが、ジャカルタから1時間のフライトで、ベリトゥン島の上空にさしかかった私はあせった。思っていたよりデカイ島である!2日もあれば踏破できるなどと考えていたが、とんでもない。空港に着いた私は、あわてて帰りのフライトをキャンセルし、1週間の滞在を決めたのである。
 
インドネシア、スマトラ島の西に浮かぶ、ベリトゥン島へ


ベリトゥン島は、スマトラ沖、バンカ島の東に隣する面積4,600平方キロメートルの島である。スマトラの周りにある島では、最も東にあり、カリマンタンにも近い。

このバンカ・ベリトゥン諸島は、スズが産出されることで有名で、世界の年間産出量の10%がこの島々から掘り出される。そのため、隣のバンカ島は島の形が変形するほど採掘されているらしい。

19世紀の初め、イギリスのラッフルズは、オランダに対抗してこのエリアに交易拠点を築こうと、ベリトゥン島、バンカ島、そしてシンガポールを候補に挙げた。最終的にシンガポールが海上交通の拠点として選ばれ、今日の繁栄があるが、候補を外れたベリトゥン島は、我々には幸い、今なお自然が残されている。

今回の旅の目的は、シンガポール在住の水草ハンター、ナカモト氏によって昨年ベリトゥン島で発見されたワイルドベタの不明種を確認することであった。彼の画像を見るとフォーシー・タイプのベタであるが、ナカモト氏によると、フォーシー・タイプにしては、かなり小さなサイズで、最初はコッキーナ・タイプのベタと誤認したほどだという。いずれにせよ、フォーシー・タイプの分布は、ベリトゥン島などスマトラ南部では今まで報告されていないので、大いに期待も高まる。



島の西部にあるホテルにチェックインした我々は、さっそく探索を開始した。この島もスズや石炭の採掘で、掘り起こされた跡が各地で散見されるが、まだまだ豊かな森が広がっている。道路わきの小川をみると、たくさんのクリプトコリネが繁茂していて、網を入れてみると、ベタ・エディサエやワセリータイプのベタがたくさん採れる。ラスボラやバルブなどコイ科の種類も豊富だ。

最初に見つけた珍魚は、ハーブビークの仲間である。黄色やライムグリーンに彩られた体側に2本の黒いラインがはいる。通常よく見られる種類とはちがい、口先が湾曲し、体側の模様も独特である。そして車を島の中央部に走らせると、真昼の炎天下に、涼しげな白い砂地で両脇にクリプトコリネが繁茂する美しい小川を見つけた。奥にはいると水深が深くなり、薄暗い森のなかで、樹木の木漏れ日が挿しこんでいる。

水中に水草が生い茂っている中を網ですくうと、とても綺麗なリコリスグラミーがはいってきた。なんと、どのヒレもグラデーション状に青く染まっている。リコリスグラミーの多くは、ヒレの色が2層や3層のリング状になっていることが多いが、真っ青のヒレをした種類を見たのは初めてである!

私は、この美しいリコリスグラミー(パロスフロメヌス)をパロスフロメヌスsp"ソリッドブルー"と命名した。おそらくベリトゥン島の固有種であろう。
 

パロスフロメヌス sp.爛愁螢奪疋屮襦辞瓩寮限地。
澄んだきれいな水が流れている


パロスフロメヌス sp.爛愁螢奪疋屮襦辞瓩鮑僚犬靴討い觧笋陵Э
調子がのってきた我々は、島の東部に足を伸ばした。
ゴムのプランテーションの奥にある原生林を分け入ると、足元にごく浅い湿地があった。通常このような場所でブラックウォーターだと、赤系ベタと呼ばれるコッキーナ・タイプのベタがひそんでいる。しかしこの場所は、明らかなクリアーウォーターだったので、どうかなと思いながら、水底にたまった落ち葉ごと網ですくうと、見事コッキーナ・タイプのベタを発見。


採集したばかりの、パロスフロメヌス sp.爛愁螢奪疋屮襦辞瓠F汎辰淵屮襦爾離哀薀如璽轡腑鵑美しい
 
ベタsp.爛好謄薛瓩魑国後水槽で撮影。体側中央にブルーの斑紋が入り、メタリックの輝点が体側からヒレにかけて広がっている

グラスケースに入れてよく見てみると、隣のバンカ島に分布するベタ・ブルディガーラと同じように、ほかのコッキーナ・タイプのベタに比べ、背ビレの幅が広い。しかし、ブルディガーラ種にはない体側のスポットがあり、それも大きくはいっている。しかも体型が寸詰まり気味である。さらに魚が落ち着いてから再度見ると、体側からヒレにかけてメタリックの輝点が広がっている。おお、これは今までに見たことがないタイプのベタだ!コッキーナ・タイプのニュータイプだろう。これは、メタリックの輝点がひろがっていることから、星屑を意味する、ベタsp"ステラ"と名付けた。


翌日、島の中央部の新たな場所を探索した。昨日と同じような原生林を見つけ、中にはいると、やはり同じような湿地が足元に広がっている。"ステラ"がいるかもしれないと思い、網を入れると、やはりコッキーナ・タイプのベタがはいってきた。「ここにもいたか。」と思ったが、よく見ると大きさや体型が少し異なるのに気がついた。

グラスケースに入れて見てみると、ベタsp"ステラ"とは違い、胴長で、コッキーナ・タイプのベタにしてみれば大きめである。しかも体側にはスポットやメタリックの輝点がなく、全身がワインレッドに染まっている。あきらかに別種である。

なんと!同じ島に2種類の、しかも両方とも新発見のコッキーナ・タイプに属するベタが生息していたのだ!私はこのベタを、全身の赤さから、ベタsp"ルージュ"と命名した。さらにその湿地を探ると、ベタ・ベリカのペアを見つけた。ベタ・ベリカは、マレー半島とスマトラ島に分布するグリーンメタリックが美しい大型ベタである。やはりベリトゥン島はスマトラに属する島なのだと確信した。そのときは・・・。

そして我々は、原生林の横を流れている小川を探った。すると、網のなかで鮮やかな赤いチョコレートグラミーが目に飛び込んできた。なんだこれは!体後半部からシリビレと尾ビレの付け根までが真っ赤に発色している。あまりの衝撃で、何かの見間違いだろうと、ほかの個体を探してみると、一緒にいた友人が「イカン・チョコラット・メラー・スカリー!!(すごく赤いチョコグラだぞ!)」と叫んでいる。

 

クリプトコリネ・フスカと思われる花苞。スマトラ本島のものとは多少形状が異なるらしい


ベタ・ベリカ。スマトラ本島やマレー半島に分布する大型ベタで、全身がメタリックグリーンに輝く


ベタ.sp爛襦璽献絖瓩凌總綣命拭A歓箸ワインレッドに染まる
 
ベタsp.爛襦璽献絖瓩寮限地。原生林の中の浅い水たまりのような場所で、落ち葉の下に隠れている

ほかの個体を採ったが、どれもすごく赤い。さっそくグラスケースに入れてみるが、体の赤色は、すぐに退色してしまった。それでもシリビレと尾ビレの付け根には赤色が残っている。しかも、よく見てみると、これは、中央カリマンタンに分布しているセラタネンシス種ではないか!

ここには、カリマンタン系の魚も生息しているのか。なんと同じ島、しかも同じ場所にマレー半島・スマトラ系のベタとカリマンタン系のチョコレートグラミーが、一緒に生息していたのである。しかも新発見のコッキーナ・タイプのベタとともに。後日、シンガポール大学のタン教授に伺ってみると、たしかにセラタネンシス種に似ているが、体色の赤さが尋常ではなく、詳しく精査してみる必要があるとのこと。


帰国後、水槽で撮影。ものすごく赤いが、それでも現地採集時の色にはほど遠い
 
ベリトゥン島中央部のスファエリクティス sp.爛后璽僉璽譽奪畢瓩寮限地


この島が、新発見種の宝庫だということはわかったが、今回の目標であるフォーシー・タイプの不明種を見つけることはまだ達成できずにいた。ここからは、目標を一本に絞り、我々は原生林にある湧水地を探しに丘陵地帯に移動してみた。経験上、フォーシー・タイプのベタは、伏流水が湧き出るジャングルの細流に生息していることが多いためである。

探し回ること数日、やっとのことでそのような場所を見つけた。先日リコリスグラミーを発見したときのような美しい細流を見つけ、網を入れてみると、見事フォーシー・タイプのベタを採集することができた。よく見てみると、尾ビレの形状から、西カリマンタンから中央カリマンタンにかけて分布する、ベタ・ストローイに似ているという感想である。しかし、何匹採集しても、どれも明らかにサイズが小さい。幼魚なのかとも思ったが、雌雄ははっきり見分けることができ、成熟していると思われる。ナカモト氏がコッキーナ・タイプだと誤認したのがよくわかった。

「島の法則」という進化に関する研究がある。大陸や大きな島に生息する個体群に比べ、島に生息する個体群は、大きくなるか、小さくなるというものだが、このベタにもそれが当てはまるのだろうか。

私は、最初の発見者であるナカモト氏に敬意を表して、このベタをベタsp"ナカモト"と命名した。
 

発見したハーフビークの仲間。
私は見たことがない種類である


郵便マークが体側に入るかわいい魚。
ポストフィッシュも採集できた。


ベタ sp.爛淵モト瓩凌總綣命拭エラにはアークレッドの2本線が入り、ボディーは光沢のあるスカイブルーに輝く
 
ベタsp.爛淵モト瓩寮限地。両脇にクリプトコリネが繁茂する美しい湧水流にて発見


ベリトゥン島はスマトラに属しているものの、カリマンタンにも近く、両エリアを起源とする魚が混生し、また混生の過程や島という隔絶された環境のなかで、他では見られない固有種のベタなども生息する、空前のワンダーランドであった。

現在、70種類近くものワイルドベタが知られているが、今回のこの島の探索だけで3種類もの、新種と思われるベタを発見した。この調子では、まだまだ未知の種類が見つかもしれない。今後とも手を緩めることなく、東南アジアでの探索を続けてゆきたい。

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